ことば

 
 鐸 声
浄土宗新聞 令和5年3月号より転記
 月といえば、まず秋を思い浮かべる方が多いたろう。秋澄む月に対して春の月は穏やかな光である。「梅の花 にほひを うつす袖のうへに 軒もる月の かげぞあらそふ」(藤原定家『新古今和歌集』)梅の花の香りがうつった袖の上を、軒より漏れた月の光が照らしている。冷んやりとした空気の中にも暖かさの気配がある。桜の華やかさに対し、梅の花には慎みのある美しさがある。
 「月かげのいたらぬさとはなけれどもながむる人の心にぞすむ」(法然上人御詠)阿弥陀さまの救いの光の届かぬところはないけれども、その光に気づき見上げて眺める人の心にこそ輝き澄みわたる。法然上人はこの歌を詠まれた時、いずれの季節の月を想い浮かべられたのであろうか。法然上人が浄土宗を開かれたのは、承安5年春のことである。
法然上人の時代は貴族の時代から武士の時代への変革期であった。現代でも戦争があり、災害や貧困が人々の対立を生んでいる。来春は浄土宗開宗850年を迎える。世界が共生の精神で調和に向かうこと願う。
 
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